加速器質量分析法による古文書の14C年代測定加速器質量分析法の最も重要な特徴のひとつは,数ミリグラムの炭素試料で14C年代測定を行うことができるというところにあります。そのため,加速器質量分析法が開発されたことで,元々量の少ない資料,鉄器のように炭素含有量の低い資料,美術品・工芸品といった貴重な資料などの14C年代測定も可能になりました。古文書も加速器質量分析法によって14C年代測定が実現した資料のひとつです。これまで名古屋大学では,数十点の古文書について14C年代測定を行ってきました。ここではそうした研究の一部を紹介します。 「十一面観音法」紙背書状(愛知文教大学・増田孝教授所蔵) 平安末期から鎌倉初期に書写されたと推定される「十一面観音法」です。数枚の楮(こうぞ)紙を張り合わせた巻物ですが,その裏面をみると,もともともは書状に使われていた紙であったようです。つまり,書状の裏側を再利用して書かれたものです。書状の方は鎌倉初期特有の法性寺流とよばれる書風で書かれており,字句・文意・文体などから考えると,差出人は上級貴族と推定することができます。 この史料について,14C年代測定を行ったところ,845±52[BP]という結果が得られました。これは,西暦に換算するとAD1166〜1262年頃に相当し,「十一面観音法」の書風の面から推定されていた平安末期から鎌倉初期という年代を裏付ける結果となりました。 ![]() 右少弁吉田冬方奉御教書(愛知文教大学・増田孝教授所蔵) 書風の面から鎌倉末期〜南北朝期に書かれたと考えられる書状です。この書状の差出人の欄には「右少弁冬方」とあります。「右少弁」という職名,「冬方」という人名から,差出人には吉田冬方という人が考えられます。さらに,文中に「大嘗会」とありますが,吉田冬方が右少弁の職についていた時期から判断すると,文保二年(1318年)の後醍醐天皇即位後の大嘗祭に際して書かれた書状であるということになります。 この史料についても14C年代測定を行ったところ,西暦1310〜1413年頃に相当する582±48 [BP]という結果が得られ,文書の内容と書風から判断される年代を支持する結果になりました。
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